幸者堂
亡国の王女

第1章 ブタルテ連邦アスタルテ市にて · 第8.5話

自白は証拠の女王である

魔導歴1821年5月13日 アスタルテ法廷 出廷 裁判長ミハエル・ウォーグレイヴ  陪席 二名 書記 検察 モロゾフ・ヴィユーギン 弁護 セルポフ・クラスノフ 傍聴 276名 11時00分 被告入廷。 11時02分  ウォーグレイヴ裁判長:貴殿はステパン・アルカージェヴィチ・ドルストフで間違いないな? ドルストフ:はい。 ウォーグレイヴ裁判長:住所は? ドルストフ:アスタルテ市メトロ街13-4-1。 ウォーグレイヴ裁判長:職業は? ドルストフ:無職です。 ウォーグレイヴ裁判長:冗談はいらない。貴殿は小説を書いており、かつ反政府的な活動を支援している。相違ないな? ドルストフ:小説は書いていますが、後半は違います。私はただのおいぼれ引退者です。 ウォーグレイヴ裁判長:ではなぜ無職と答えた。貴殿は小説で収入を得ている。これは我々も知るところだ。 ドルストフ:私に言わせれば、あなた方のような立派なお仕事に比べたら無職と同義です。 ウォーグレイヴ裁判長:もうよい。後半の反政府運動の証拠が検察から提示されている。 ヴィユーギン検察:この『黒と白』は我が国の国家元首であるルシナ・ブラネファの容姿を指しており、内容も反体制的であり、読者人民を統一から遠ざけようと斡旋していることは明らかです。 ドルストフ:異議あり。私の作品は人徳主義を貫いただけであり、タイトルも白黒という一般的な名前を使ったにすぎません。 ヴィユーギン検察:言い訳にすぎませんね。あなたは他の作品でも民族自決や敵を愛するなどという、統一運動に反した主張をしています。言い逃れをしようとしているだけです。 (傍聴席から罵倒語が飛ぶ) ウォーグレイヴ裁判長:静粛に。では被告ドルストフはこれに対して反論があるか? ドルストフ:何をいっても無駄でしょう。結論をあなた方は決めつけている。 ウォーグレイヴ裁判長:よろしい。では次の質問に移ろう。 ヴィユーギン検察:被告は『黒と白』の初版は12000部発行した。また加えて被告はファンレターという形式で彼らとも文通を交わしていたことが証拠にあります。これは被告が独自のネットワークを築いていた事実に他なりません。 ドルストフ:まず第一に私の読者が反体制的かどうかと、私が反体制的組織に所属していることは別の話です。読んだ読者が必ずしも全員反体制的になるわけでもありません。現にあなたはなっていない。 クラスノフ弁護人:裁判長。検察の証拠が弱いです。もう少し強めの証拠を出させるべきかと。 ウォーグレイヴ裁判長:弁護人の意見に同意します。 ヴィユーギン検察:ではこうしましょう。ドルストフ被告の販売した本を取り扱った書店、そして被告宛に届いた手紙とその差出人はすでに追跡が完了しています。その中にはアスタルテ大学の学生が5人もいます。 (沈黙) ウォーグレイヴ裁判長:被告。何か意見や質問はあるか。 ドルストフ:私宛の手紙の多くはファンレターであり、私から返答したものはほとんどありません。検閲したのでしょう? どれも政府を害そうというものはなかったはずです。 ヴィユーギン検察:そういう話をしていない。交流のあったアスタルテ大学の4人はすでに警戒リストに入っており、残る一人、M・ドルマンも捜査対象になりうる。貴殿はすでに十分疑うに値する証拠を残している。 ドルストフ:私が認めれば、残る一人は助かるのですか? ヴィユーギン検察:被告に取引の権利はないが、捜査の手間が省けるのは事実だ。 (数十秒の沈黙。被告は自白の意を決する) ドルストフ:裁判長、私は無職ではなく作家です。目的は政府の打倒です。統一運動への反対を扇動するために今まで多数の作品を書きました。 ヴィユーギン検察:よろしい。本人の自白もあります。ブタルテ人民委員令35条「人民の敵対者への参画」を適用し、銃殺刑を求刑します。 (傍聴席から拍手) ウォーグレイヴ裁判長:静粛に。では30分の休廷とし、その後に判決を言い渡す。 (36分の経過) ウォーグレイヴ裁判長:被告ステパン・アルカージェヴィチ・ドルストフは統一運動に反対し、敵対者を扇動し、尚且つ当指導部への侮辱行為も行った。これら行為は人民への裏切り行為にとどまらず、また平等を希求する他国の統一主義者への冒涜ですらある。よって検察側の主張を全面的に受け入れ、被告には銃殺刑を言い渡す。 13時14分 閉廷