幸者堂
転生探偵と自由落下の少女

第6章 最期の挨拶 · 第01話

思わぬ来賓

 メタリカ帝国の春。  この頃は事件がめっきり起こらず、ほとんど毎日が休日だった。そんなある日の平日の事。エリーゼが魔法大学へ行っている間の事である。  カーン。 「お、事件かな。はい、ただいま行きます」  ガチャリと木製のドアを開ければ、ロングスカートにコルセット、褐色のブーツに頭部にはスチームゴーグルを付けた茶髪の女が立っていた。いわゆるスチームパンクというやつなのだろう。 「やあ、ガウス・カルマート君。それともこう言った方が良いかな、時雨陽介君と」 ドヤァっと笑みを浮かべる、その背の低い女に俺は見覚えがあった。 「……誰です?」 「おやおや、お忘れかな? では改めまして。私は天界第75東部担当天使、ドロシア・サンクトス。君をこの世界に案内した天使ちゃんだよ?」  思い出した。この生意気そうな見た目が印象的だったのだ。 「ひ、久しぶりですね。まあ、立ち話もなんですし、どうぞ中へ」 「お邪魔しまーす!」  案内すると、ドロシアはウキウキしながら部屋中を見回した。 「食器も家具も良いものじゃないか。おや、これはピアノだね! うん、中々素敵なところに住んでいるようだ!」 「で、なんの御用ですか? 遊びに来たわけではないでしょう?」 「まあ待ちたまえよ、カルマート君。ゆっくり談笑しようじゃないか。僕らは実に6年ぶりの再会なのだから」 「は、はぁ……」 「ところでどうだい、この衣装は? この世界観にマッチしているだろう?」 「正直変ですよ。今の時代、女性はドレスと羽根帽子ってのが流行りですからね」 「本当? えー、がっかり」 「何か飲みますか? 口に合うかはわかりませんが、安物のお茶とビスケットなら出せますよ」 「ではそれを頼むよ」  俺がキッチンへ準備に行くと、彼女は窓辺に飛びついて、鼻歌を歌いながら外を眺めだした。 「お待たせしました」 「おお、来た来た」  ピョコっと飛び跳ねて、天使はテーブルに着く。 「いや、汽車が走っているね。魔法の世界なのに君のいた世界みたいになりつつあるよ!」 「……で、何の用なんです?」 「ああそうだった。まずは夜闇の女王フィーネの討伐おめでとうって言わせてよ」 「どうもありがとうございます」 「で、その討伐者はエリーゼと言ったね」 「はい、よくご存じで」 「もう知っていると思うけど、彼女が魔王だよ」  ドキリとした。自分の耳を疑った。 「ハハ、何のご冗談です?」 「ごまかし方が下手だよ、カルマート君……ん、このお茶美味しいな……」  エリーゼは魔王アリア。  予想しなかったといえば噓である。軍隊長キーターの証言とエリーゼの異常な魔力を思えば、十分にありうる話だ。 「で、では私に彼女を殺せと申すのですか?」 「ああ、それなんだけど——」  カーン。呼び鈴がなった。 「すみません、来客です」 「……何か悪い空気がするね、そのお客さん」  ドロシアが何かをこぼしたが、俺は気にせずドアを開けた。  そこには緑色のドレスに水色の日傘、濃い目の化粧をした、長い金髪に魅力的な碧眼の貴族風の女が立っていた。 「こんにちは、ガウス・カルマートさんですね?」 「はいそうです。依頼ですか?」 「いいえ、お宅のエリーゼという娘についてお話が」 「おーい、カルマート君! その女もこっちに連れてきなよ!」 と、部屋の奥からドロシアの声が。 「あら、エリーゼさんかしら?」 「いえ、今のは客人でして。もしよろしければお話だけでも伺いますので、どうぞ中へ」 「ではそうさせてもらいますね」  部屋へ案内すると、 「おやおや、シャコンヌ君が自ら来るとはね」 「まさか貴女だったんですね。そちらこそ天界規定を違反していますし、世界元老院としましても看過できない事ですよ」 と、二人は火花を散らせながらにらみ合った。 「お二人はお知り合いなのですか?」 「ええまあ」 「まあね。さ、さっさと自己紹介したらどうなんだい、アバズレ」 「言われなくとも……! ——ご紹介遅れたことお許しください。私は世界元老院議長、リリシア・マティ・シャコンヌと申します」 「世界元老院? 聞いたことのない機関ですね。何をするんですか?」 「この世の均衡を保つことを目的としております」 「嘘つけ……」 とドロシアが言うが、リリシアはそれを無視し 「今回は貴方様のエリーゼなる娘を連行するために、こうして参りました」 「エリーゼの連行?」 「はいそうです。世界元老院はエリーゼ、もとい魔王アリアを用済みと判断し、処分する意向です。抵抗なさらず、身柄を差し出しなさい」 「な、なんだと……? 渡してどうするんだ?」 「決まってるでしょう? 処刑ですよ」 「断ると言ったら?」 「困りましたねぇ、素直に差し出せば平和に終わるんですが」  リリシアは日傘の柄の部分をひねると、そこから細いレイピアが抜き出され 「では、まずはガウス・カルマートさんを拘束するのがよろしいでしょ——」 「ホーリー=スマイト!!!」  ズドーン!  リリシアが言い終わる前に、ドロシアは呪文を唱え、彼女を部屋ごと吹き飛ばした。  ホコリが舞う中で、 「ゲホゲホ……」 「さあ、カルマート君。逃げなきゃまずいよ」 「わ、訳がわからんぞ!!!」 「あとで話すよ」 というなり、ドロシアは俺の手をつかんで部屋から飛び出した。 「逃がしは致しませんわ」 と背後から聞こえるのを無視し、俺とドロシアは走った。