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入学式から一週間が経過した。
あれから桜木舞花とは一切会話していない。まあ、あんな美少女と俺とではつり合わぬだろう。
俺はどこかそんな風に諦め始めていた。
現在は放課後。
教室にて遠野と部活について話している。
「僕ね、部活なんてやらないって言ってたでしょう? いや、食わず嫌いって罪だね!」
「なんだよ、勿体ぶらないで話せよ」
「僕はね、将棋部に入る事にしたよ」
なるほど確かに遠野は将棋が得意だった。
「よかったな、入りたいのが見つかって」
「誠司はどうなの? やりたい部活、見つかった?」
「まだだな。この学校の部活はどこも活発でな」
「あまり忙しいのは嫌なの?」
「まあ、そうだな」
俺は多分どこか怠慢な所があるんだと思う。
どこかに週二日くらいの軽い部活はないだろうか、と思っていると
「君たち、なんの話してるのかしら?」
と、担任の三島詩織先生。
「ここの石宮君がどの部活にしようか決め兼ねてるんですよ」
遠野の女性恐怖症は教師には無効らしい。
「そうなの?」
「そうですね」
「ならさ、文芸部なんてどうかな?」
「先生、国語科ですもんね」
「うーん、どうしようか」
俺が悩む素振りから脈アリと見たか、先生は続ける。
「あのね、実は文芸部、去年の卒業生が最後で、現在部員ゼロなんだよね。だから今年部員が入らないと廃部になっちゃうの」
「なるほど、廃部に……」
まてよ。部員が俺だけとあらば、予定は自分で決められるんだよな?
「先生、俺、やりますよ」
「ありがとう。でもね部活の存続には、部員が最低四人必要なのよ」
「まずは四人のメンバーを集めないといけないんですね」
「そうなの」
「そう言うことなら兼部になっちゃうけど、僕もやりますよ」
「二人ともありがとう。文芸部の部室はわかる? 部室棟三階の一番奥よ」
♢
部室棟三階西側の最果てに文芸部の部室はあった。
ガチャリと扉を開けると、中は酷く埃っぽかった。
「ゲボッ、ゲホッ! ……こいつは酷いな。遠野、そっちの窓頼む。俺は廊下の方を開ける」
「了解」
部室の中には二畳分程の長机と折り畳み式の椅子が数脚、ぎっしり詰まった本棚と清掃用具のロッカーが置かれていた。
窓からは川が見え、そこには綺麗な桜並木が連なっている。
「悪くないな、眺めは」
「誠司、まずは部員を集めなきゃならないんだよね?」
「そうだよ。部室は他の部だって欲しがってるだろうし、早い事解決した方が良いだろうな。だが、まずは掃除しようぜ」
「そうだね」
二人で分担して清掃をしていると、不意に
「あの、ごめんください」
と風鈴を思い起こさせる、落ち着いた声がした。
入り口にいたのは、雪女の様な白い肌と切れ長の澄んだ目をした黒髪ロングの女。まつ毛が長く、鼻がスッとしていて美しい顔立ちだ。
大和撫子とはこう言うやつを指すのだろう。
「どうしましたか?」
「ここって文芸部ですよね?」
チラッと上履きを見て、彼女が同じ一年生である事に気がつく。
「そうだが、それが?」
「廃部になったんじゃありませんか?」
「部員が四人揃えば存続できるみたいだぜ?
あと、敬語は要らないよ。ほら、上履き。同じ赤だろ?」
「あら、本当ね」
「で、何かご用が?」
「私も文芸部に入ろうと思っててね」
「そいつは構わないんだが……」
心配して遠野の方に目を向ける。しかしこいつはどう言う訳か、桜木の時のような拒絶反応を起こしていない。それどころか不躾に彼女をボーッと見つめていた。
「なあ遠野。大丈夫か?」
「……え? あ、ああ。僕は平気だよ」
「だそうだ。よろしく頼むよ」
「ええ、よろしく。私は一年G組の冬原智雪」
「俺は石宮誠司だ。で、こいつが」
「と、遠野譲治と申します!!!」
「ふふふ、よろしく」
「悪いんだが冬原さん。君には入部届を書いてきて貰わないといけないんだ。国語科に行ってきてくれないか?」
「ええ、入部のためなら喜んで」
そう言い残すと、彼女は足早に去って行った。
「なぁ、遠野君」
「な、何かな?」
「『名馬はその烙印で、恋する男はその眼差しでわかる』って諺《ことわざ》がロシアにあるんだぜ?」
「それ本当?」
「さあね。トルストイの『アンナ・カレーニナ』でそんな感じのを読んだ気がする」
「……で、何が言いたいのさ」
「お前、恋に落ちたろ?」
「ほっとけ」