幸者堂
転生探偵と自由落下の少女

第4章 彼女の涙(番外) · 第01話

依頼人オルガノン

 エリーゼとともに過ごして早二年。俺は彼女とのアパートでの生活に慣れていた。  エリーゼとは戸籍はなく、記憶喪失の正体不明の少女である。エリーゼという名も俺がその場で付けた仮の名で、年齢さえも分からない。  分かっていることと言ったら、彼女が東アルフヘイムの空から降ってきた事。人情深い心の優しい少女である事だけだ。  然れども、エリーゼとて物凄い怒りを感じる事もあり、またそれ故に他人を殺めかけた事もある。今回はその話をしよう。 ♢  その日は憂鬱な日だった。異世界の鋼鉄帝国メタリカの首都ラジアンにも雨季がある。お陰様でここ一週間は外出をしていない。身体は日光と運動を求めていた。  そんな時に事件が舞い込んできた。  俺とエリーゼが談笑していると、階段を駆け上る音がして、それからその音は俺の部屋の前で止まり、軽い扉のノックの音がした。 「悪い、エリーゼ。依頼人が来たみたいだな」 「その様ですね。お茶とお菓子を用意しますね」  エリーゼは自身の話が遮られても、嫌な顔一つせず、にこりと笑った。  自室の扉を開けると雨音とともに風が吹き込んで来、そこには一人の紳士風オークが立っていた。オークの見た目は人間だが、皮膚の色が緑色なのが特徴だ。 「ガウス・カルマートさんですね?」  ツンと張った髭が立派な彼の声は見た目に合わず、随分と高かった。 「ええ、そうです。依頼ですね?」 「はい」 「でしたらどうぞ上がって下さい」 「ありがたく、親切を頂戴します」  オークはその場で汚れたコートと雨に濡れた帽子を脱ぎ、部屋に入って来た。  リビングに通すと、既にそこにはエリーゼが用意してくれたお茶とお茶請けがあった。 「おや、どなたかご用意してくれたらしい。同居人がいらして?」 「ええ。実は一人少女と一緒に暮らしています」 「それはそれは……大層な事で」 オークはエリーゼに気がつくと、同情するように彼女を見つめた。 「勘違いして貰っては困ります。彼女も私の仕事の範疇です。彼女の素性が分からないので、預かっているのですよ」  それを聞いたオークは安心したらしく、ホッと一息吐いた。 「良かったです。これから頼る方が奴隷の少女を連れる趣味があると知れたら、私はどうするべきか途方に暮れていたでしょうからね」  俺はそれを笑って流す。 「ささ、どうぞお掛けになって下さい。折角のお茶が冷めてしまいますよ」  俺は彼の為に椅子を引く。 「そうでしたそうでした」  オークは鞄を足元に置いて、それからテーブル席に着いた。  俺は彼が一口茶を飲んで、リラックスした頃合いを見計らって、事を始めた。 「ところで、ご依頼を承りたく存じます」 「そうでしたそうでした。最近どうも忘れっぽくてダメですね」 と言って、彼は鞄から一冊のファイルを取り出した。 「まずは自己紹介から。私はメタリカ法律事務所のオルガノン・クーと申します。私が今回扱う事件です。一度目をお通しくだされば、ある程度把握出来るのではないでしょうか」 と言って、彼は俺の向きにファイルを回転させ、ページを開いた。